PROJECT STORY新規事業

日工のもっとも新しい事業である
「モバイルプラント事業」。
その飛躍を支えるメンバーたちの奮闘。

※内容は取材当時のものです

INTRODUCTION

Wordモバイルプラント
主に建設現場や採石場で使われるプラント。岩石やガレキを砕いて選別し、材料として利用できる状態にする。最大の特徴は「モバイル」というネーミングの通り、移動性を持つこと。プラントでありながら走行装置を備え、現場まで自走できるうえに設置方法もシンプル。経済性にも優れているため、世界的にニーズが高まっている。

レールを敷く番が来た。

M.H.
モバイルプラント事業部 モバイルセンター
2014年入社
工学部 応用化学科 卒

日工のモバイルプラント事業部が発足したのは、2018年のこと。業界では最後発のスタートだが、勝算はあった。武器のひとつが、ハイレベルな「サービス」。サービスとは、点検や調整、修理といったメンテナンスを中心的に手がける職種をいう。日工のプラントは、インフラに不可欠な材料を生み出す。だからこそ、プラントを止めないためのメンテナンス技術が厳しく問われる。「プラントの1台目は営業が売り、2台目はサービスが売る」——そんな言葉まであるほど、メンテナンスのレベルが重要視されているのだ。これまでに鍛え抜かれたサービスの力をモバイルプラントでも発揮できれば、きっと事業の大きな推進力になる。

とはいえ、既存のプラントとモバイルプラントには大きな違いもあった。そのひとつが「代理店契約」。日工はこれまで自社製のプラントを販売してきた。だが、モバイルプラント事業は海外メーカーとの代理店契約——つまり「他社製のプラントを日本国内で売る」ことでスタートを切っている。プラントにトラブルがあったり、改造の必要が生じたりしても、日工だけで解決するわけにはいかない。海外メーカーとのコミュニケーションが避けて通れないのだ。

「そこに障壁があった」と、事業の立ち上げ当時からサービスを担当するM.H.はいう。「プラントに何かあれば、当然ですがクライアントは困ります。私たちはその心情を汲んだ対応をしたい。直して終わりではなく、『なぜそれが起きたのか』『どうすれば再発を防げるのか』まで踏み込みたい。ところが海外メーカーでは、修理方法だけを簡潔に伝えてクローズしようとする。文化の違いですから優劣はつけられないものの、日本のクライアントを対象にする以上、どうにか埋めるべきギャップでした」。

言葉や時差の壁にも苦しみながら、M.H.は海外メーカーとの対話に心を砕いた。粘り強くやりとりを重ねる。理想の答えを引き出すために、こちらの質問をしっかり練る。埒があかない時には上司を担ぎ出し、「会社対会社」の構図で真剣に向き合う。日本の文化をわかってもらうことはもちろん大切だが、M.H.は向こうの文化や技術を理解するための努力も怠らなかった。ありもしない近道を探すのではなく、できることをひたすら積み重ねていく姿勢。それが功を奏した。「まだ戸惑うこともある」ものの、すれ違っていた文化は少しずつ溶け合ってきたとM.H.は感じている。

こうした苦労の一方で、モバイルプラントはM.H.に知的好奇心を満たす喜びも与えてくれたという。「この事業に移るまでは、アスファルトプラントやバッチャープラント(コンクリートプラント)のメンテナンスに携わっていました。どちらも歴史の長い事業ですから、大先輩たちが敷いてくれたレールがあった。けれど、モバイルプラントにレールはありません。わからないことだって、まだまだ多い。『ここはどうなっているんだろう』『なぜこんなことが起きるんだろう』という疑問を持ち、開発者の意図を読むように答えを類推し、正解にたどりつく。それがとても面白いですね。さらに、それを横展開すれば日工の体制づくりにも貢献できる。『レールを敷く番が来た』——いまの私は、そういうことかもしれませんね」。

3年に1度のミュンヘンへ。

R.M.
モバイルプラント事業部
2022年入社
国際教養学部 国際文化学科 卒

3年に1度、ミュンヘンで開かれる世界最大規模の建設機械見本市「bauma(バウマ)」。その開催が近づくと、モバイルプラント事業部もにわかに活気づく。クライアントも招いて、日工主催の「bauma視察ツアー」が敢行されるからだ。参加者は日工社員も含めて30名。現地滞在は1週間にも及ぶ。業界の最新動向をクライアントと共有できるだけでなく、ビジネスの発展も見込める貴重な機会だ。

この一大イベントの企画と実施を任されたのが、営業のR.M.だった。じつはR.M.、3年前のbaumaでもツアーの立案に携わっている。ただし当時は入社したばかりで、勉強の意味合いが強かった。あの時の経験を糧に、今回は満を持しての登板だ。

R.M.はもともと、物事の計画を立てるのは得意だった。ツアーの責任者としては素質十分だが、それにしてもやるべきことが多い。航空券とホテルの手配は旅行会社に委託できるが、それ以外のほとんどすべてがR.M.の担当だ。baumaへの入退場はもちろん、移動、食事、観光、現地企業の見学など、全行程を細部まで企画しなければならない。それらに伴う手続きや資料作成といった膨大なタスクもついてくる。それでも手は抜けない。せっかくクライアントも同行するのだから、単なる視察にはしたくない。日工らしく、価値ある体験を提供したい——それがR.M.の目標だった。

とりわけ頭を悩ませたのは、クライアントによって見たいものや聞きたいことが違う点だ。あるクライアントに合わせて見学先を選ぶと、別のクライアントの不満につながりかねない。思い切って、参加者が2グループに分かれることを前提にスケジュールを組み直した。当然、調整すべきことは増えるし、それぞれのグループに担当者をつける必要も生じる。それでもR.M.は「価値ある体験」の追求を優先した。

努力の甲斐あって、ツアーは大成功だった。もちろん、想定外はいくつも起きた。急に行き先が変わってあわてて観光バスを呼び戻したり、知り合い同士で固まってしまいがちな参加者の間に入り、交流を盛り上げたりもした。そうした苦労のすべては、参加したクライアントからの「すごくよかったよ」という一言で報われた。

もうひとつ、大きな収穫があった。ツアーの合間を縫って、日工が代理店契約を結んでいる現地メーカーとのミーティングが実現したのだ。さまざまな情報交換が行われる中で、テーマに挙がったのが「日工のbauma出展」。そう、日工は将来的に、自社製品を引っさげてのbauma参画を計画している。baumaの一角に設営された日工ブースに、クライアントを案内するR.M.の姿——もしかしたら3年後のミュンヘンでは、そんな光景が見られるかもしれない。

再起動の先にある世界。

曾根 武志
取締役 事業本部副本部長
兼 事業本部 サービス企画部長
兼 モバイルプラント事業部長

モバイルプラント事業は、新しいフェーズを迎えようとしている。

本格事業化から7年を経て、売上や納入台数は順調に伸びてきた。一方で、「課題も見えている」と事業部長の曾根は明かす。「たとえば、モバイルプラント事業はクライアントの約90%が新規です。ただ、新規開拓の成否は営業個人のスキルに委ねられてしまいがち。それだけではなく、ファンと呼べる固定クライアントを獲得するための仕組みを構築したい」。

「仕組み」のひとつが自社製品の強化だ。海外メーカーの代理店として出発したモバイルプラント事業だが、日工の独自製品としても土質改良機をラインナップ。その最新機種である「Mobix Eco(モビックス エコ)」は、日工のコア技術を応用して基本性能を高めたうえに、電気と油圧のハイブリッド駆動によって前例のない低燃費を実現した。

日工の得意分野であるメンテナンスにもさらに力を注ぐ。サービスを行うスタッフの増強を急ぐほか、これまでに蓄積されたデータを活用して、クライアントがメンテナンス情報にすばやくアクセスできるアプリのリリースも果たした。

ここに挙げたのはあくまでも一例だ。事業のあらゆる面で動き出した取り組みを総称して、曾根たちは「事業の再起動」と呼んでいる。「再起動の次は『事業の安定化』、そして『絶対化』と、先々のテーマもすでに設定しています。そのさらに向こうには、国内シェアNo.1の奪取と『世界のNIKKO』という壮大な目標がある」。日工がモバイルプラント事業に参入したことで、市場は活気づいた。けれどそれは、市場の可能性に改めて気づいた他社との激しい競争も招いた。実際に「日工の好調が他社に火をつけ、最終的には売り負けてしまった」という分野もあるという。勝ちの体制を整えるための、思い切った再起動。その先に、モバイルプラント事業の大きな未来がある。