PROJECT STORYMobix Eco(自走式土質改良機)

日工が生み出した最先端を、世界へ。
部門を超えたプロジェクトが始まる。

※内容は取材当時のものです

INTRODUCTION

Word土質改良機
建設現場で発生する余剰の土砂をリサイクルするための装置。原料となる土砂と固化材を混ぜ合わせ、再利用できる状態へと改良する。日工は自走装置を備えた土質改良機の開発に2016年から着手。最新機種である「Mobix Eco」は、日工のコア技術を活かした混練性能や、日本初のハイブリッド動力による優れた燃費で注目を集めている。

PROFILE

K.C.
R&Dセンター 技術開発部 開発1課
2015年キャリア入社
工学部 機械系 卒
Y.T.
R&Dセンター 技術開発部 開発1課
2021年新卒入社
工学部 機械システム工学科 卒
R.H.
R&Dセンター 技術開発部 開発1課
2011年新卒入社
工学部 機械システム工学科 卒

新しい法規制。

2023年5月。「宅地造成及び特定盛土等規制法」——通称「盛土規制法」が施行された。

盛土とは、土を盛って土地を改良すること。たとえば、斜面を平坦にすることなどを指す。2021年、熱海市で大規模な土石流が発生した。その被害を拡大させたのは違法な盛土だったことがわかり、法改正によって新たに規制されることになった。盛土の原料といえる土についても、その品質が厳しく問われる。

これをきっかけに社内外の注目を集めたのが、日工の自走式土質改良機「Mobix Eco」だ。建設現場で掘削され、余った土砂を固化材と混練し、高品質な再利用土にすることができる。その名の通りキャタピラで現場まで自走できるため、設置も容易だ。

思いがけない反響。

Mobixシリーズはもともと、「自走式の製品をつくれることを展示会でアピールしたい」という社内の声から生まれた。その声に応えて、図面を引いたのがK.C.だ。日工の既存技術を巧みに応用しつつ、キャタピラなどの新技術と組み合わせて初代Mobixを形にした。とはいえ、ビジネスとしてのポテンシャルについては半信半疑だったという。「『展示会に出してみて、どこからも声がかからなければこの1台きりで終わりだろうな』。そんなふうに思っていました」。そうK.C.は振り返る。

ところが、Mobixは展示会で思いがけない評判を呼んだ。Mobixの大きな特徴のひとつは、ハイレベルな混練性能だ。「混練」は、日工が長い歴史の中で確立したコア技術。優れた混練は再生土の品質を高めるばかりでなく、省エネや省資源にもつながる。そして、競合メーカーのどこにも、混錬性能をストロングポイントに掲げているところはない。こうした点も注目の高さにつながったのだろう。

ビジョンを体現する製品。

大きな反響に後押しされるように、K.C.は後継機の全体設計に取りかかった。それが「Mobix Eco」だ。混練をはじめとする基本性能を向上させたほか、もうひとつの目玉として、油圧と電動のハイブリッド駆動を採用した。燃費を劇的に抑えられる、日本初の試みだ。これらの魅力的なスペックに盛土規制法が背景として加わり、プロトタイプの段階からMobix Ecoには問い合わせが殺到。大ヒットを予感させた。

ただ、K.C.と同じR&Dセンターに所属するR.H.は、Mobix Ecoの勢いを喜びながらも危機感を覚えていた。「いまの体制では限界がある」——。

評判の高さに比例するように、Mobix Ecoには強気なロードマップが設定された。まずは国内で地盤を固め、2028年に海外の展示会で世界デビュー。最終的には国内外で年間90台、売上にして約60億円を目指す。ただ、そこまで拡大すると今の体制ではとても支えきれない。現在はMobix Ecoを市場の声に合わせてブラッシュアップしていくフェーズだが、すでに担当メンバーは手いっぱいの状態だ。

R.H.は言う。「Mobix Ecoは非常に付加価値の高い製品です。土質改良の大きなニーズに答えることができ、環境性能も優れている。日工の長期ビジョンである『世界を強く、やさしい街に』を体現するような存在だといえます。だからこそ、万全の体制で世界中に届けていきたい。販売から製造、アフターサービスまでを包括したワンチームを構築することが不可欠だと思いました」。R.H.は、日工全体としてMobix Ecoを育てていくための「Mobix Globalization Project」を発足。そのリーダーにR.H.が指名したのが、入社5年目のY.T.だった。

世界を席巻する未来へ。

Y.T.は入社2年目からMobixに関わってきた。きっかけは、上司との面談で「Mobixをやらせてほしい」と直訴したことだ。「これから本格的に製品化されるものなので、面白そうだと思いました。しかも、地盤の安全性向上という大きなテーマに貢献することができる」。Y.T.の意欲と好奇心を、R.H.は高く買っていた。ただ、プロジェクトのリーダーを務めるのは部長クラス以上が一般的だ。まだ若手のY.T.は、異例の抜擢となる。「それでも任せてみたいと思いました。大変なことも多いでしょうが、私たちがしっかりサポートすればいい」。

Y.T.は今、17名のプロジェクトメンバーを率いている。営業や設計、サービスから数人ずつが集まった混成チーム。Y.T.の目下のミッションは、タスクの洗い出しと振り分け、スケジューリング。その采配に沿ってプロジェクトが動いていく、重要な基礎固めのフェーズだ。「まだ始まったばかりなので、成果と呼べるほどのものはまだありません」。そう謙遜しながらも、Y.T.の想いは強い。「Mobix Ecoは、体制が完璧ではないゆえに『売れるのに売りづらい製品』になってしまっている印象です。けれど、販売からアフターサービスに至る基礎をしっかり固めれば、それはきっと払拭できる。各部門の仕事をしっかり理解しながら、目標の達成を成し遂げたいと思っています」。まずは2028年の海外展示会へ。そして、そこから始まる世界進出へ。Y.T.が率いるチームは、着実にその歩みを進めている。