PROJECT MEMBER
海外営業部
北嶋 直紀NAOKI KITAJIMA
2015年入社の若手社員。2017年から念願の海外営業部配属となる。現在は主に台湾市場を担当するほかフィリピン、ミャンマー、マレーシアなどでの市場開拓やリサーチにも従事。本プロジェクトでは得意の語学力を活かし資料や図面などの翻訳作業をサポート。
海外営業部
山口 直哉NAOYA YAMAGUCHI
2008年入社の中堅営業マン。2011年から海外営業部に所属。現在は成長市場のロシアとタイを担当。抜け・漏れのない緻密な営業手腕には定評がある。本プロジェクトではチームリーダーを務め、顧客折衝からプラントの仕様決めをはじめ進行全体を統括。
アスファルトプラント技術センター 技術部
川村 克裕KATSUHIRO KAWAMURA
1994年の入社以来、25年にわたってプラント開発に携わり、技術部門内はもちろん営業部門からも高い信頼を寄せられるベテラン技術者。本プロジェクトでは技術参謀役を務め、プラントの基本設計を統括したほか多くの専門的アドバイスで受注獲得に貢献。
技術部
柴田 智輝TOMOKI SHIBATA
2012年入社の若手エンジニア。技術者ながら営業的な視点での発想もできる柔軟性が評価されている。本プロジェクトではコミュニケーション能力の高さを活かしたタイ政府への技術プレゼンのほか、受注後の詳細設計、建設工事の進行管理などの実務も担当。
注:掲載内容(所属、役職名等)は2019年2月の公開当時のものです。
PROLOGUE
──2016年7月 2016年7月 台湾・台北/北嶋 直紀
「日工の未来」が
かかった新規案件
午後6時。台北市のホテルにチェックインして荷物の整理を一通り終えた北嶋直紀は、デスクにノートPCを開いた。画面に現れたのは、あるプラントに関するプレゼンテーション資料。「さて、と。やりますか…」つぶやいて、彼は作業を開始した。
実はこの資料、北嶋の担当案件ではない。台湾出張に来る2日前、営業部の先輩である山口直哉から英訳を頼まれた「タイの新規案件」に関するものだ。明日朝から始まる台北での自分が主担当を務める業務の前に、この英訳作業に着手しておこうと考えたのだ。
「北嶋君が翻訳作業を手伝ってくれて本当に助かるよ。これには日工(ウチ)の未来がかかっているんだからな──そっちも忙しいだろうけど、期待しているよ。」電話で聞いた山口の声に、いつも以上の熱がこもっていたことを北嶋は思い出していた。
「タイの新規案件」は部内でもかなり話題になっていて、北嶋もある程度中身を知っていた。たしかに、これが受注できれば、ウチの海外事業にとっても大きな一歩になる。将来的には台湾のビジネスにも関係するかも知れない。
しっかりやろう。山口さんのためじゃなく、自分自身のために。キーを打つ北嶋の指に、力がこもった。
SCENE1
──2016年8月〜 タイ・バンコク/山口 直哉
未開拓のタイ市場で
巡ってきた大チャンス
「──このように、温度管理、計量精度、混錬性能に優れる当社の製品を採用いただくことで、高品質舗装材の安定的な生産体制が実現するわけです」。プラントの仕様に関する説明を一通り終えた山口直哉は、場を見渡した。タイの大手道路会社・P社の会議室。外は40℃近い猛暑だが、部屋の中は寒いくらいに冷房が効いている。
山口の正面に座ったP社の技術担当役員が通訳を介して訊ねてきた。「そこまでの高機能が必要でしょうか?他国のメーカー製品の価格のようにもっとずっと安価にできるのでは?」
また、それか。山口は軽い苛立ちを覚えた。このところずっとこんなやりとりの繰り返しだ。なんとか気をとりなおし、彼は言った「もちろん製造コストの低減には可能な限り努めます。ただ以前も申し上げたように、当社としては品質面での安定性・信頼性の確保が、この案件の絶対条件であると考えています!」声が自然に大きくなるのを自分でも感じていた。
この半年間、山口たちが進めてきたのはP社への「リサイクルシステムを有したアスファルトプラント」の提案だ。リサイクルシステムとは、古くなったアスファルトを原料骨材(の一部)に使って “再生合材”を製造する設備。日工の得意分野の一つでもある。
日本では、アスファルトの再資源化率が99%にも上っているが、タイではまだ公式の舗装材料としては認められてはいない。そのタイ政府が再生合材の導入を検討しはじめた、とのニュースが飛び込んできたのは今年(2016年)の春。日工にとっては大きなチャンスの到来だった。
価格勝負には
絶対にしたくない
プロジェクトがめざしているのは、この事業落札の有力候補と目される道路会社P社からの関連機材一式の受注だ。
P社の機材調達先の候補リストには、日工の他にも複数の海外メーカーが名を連ねていた。そのなかでも特に強力なライバルと見なされたのが中国メーカーのC社だった。技術力はそれほど高くはない企業だが、原価を徹底的に抑えた「低価格」を武器にタイ市場でも既に実績を作っている。今回のプロジェクトでも、C社は驚くほどの安価を提示していることを山口は知っていた。
「価格勝負」にされてしまうと恐らく日工に勝ち目はない。もちろんP社も安ければ品質や機能はどうでもよいと考えているはずはない。だが価格との兼ね合いにおいて、それらがどの程度重要なのか……。
着地点がはっきり見えないまま、手探りでの交渉を重ねるしかない山口にとって、ゴールはいまだはるか先に感じられた。